暗闇だから、怖くなかった




「それじゃ、さっきの話に戻りますね」


 お客さん──陽子さんはそこで区切ると手を膝に置いた。


「森さんは、私の兄と付き合ってるんですか?」

「……いいえ」


 それならどんなに良かったか。仮に付き合っていたとしても、数ヶ月も連絡を寄越さず放置するなら恋人とは言えないだろう。


「……そうですか、大変失礼いたしました」


 陽子さんの視線が下を向いた。なんとなくだけど肉じゃがが目に入ってないような気がしてしまう。お客さんのプライベートにズケズケと踏み込むのは良くない、というお祖母ちゃんの顔が浮かんだ。


「あの、何かあったんですか……?」


 なのに、私は言い付けを破って訊いてしまった。榊原さんもお祖母ちゃんみたいに入院して、意識がないのだとしたら? 一度でも想像したら自分を止められなかった。

 陽子さんは顔を上げ、ソワソワと後れ毛を耳にかけた。目は横を見たり上を見たりと落ち着かない。