ドキドキしながらよそい、汚れがないか確認する。
「お待たせしました、肉じゃがです」
コトッと軽い音を立ててお客さんの前に置く。お箸を準備するのも忘れない。だけどお客さんは湯気の立つ肉じゃがではなく、私をずっと見つめている。
若い女性が一人でやっているのが珍しい? それにしたって限度がある。
「あの」
一体どうしたのか訊こうとして、私は彼女の瞳を見返した。
「あなた、兄さんと付き合ってるの?」
「……え」
間抜けな声が自分の口から漏れて、数秒間は何も言えなかった。
え? 兄さん? 付き合ってる? 誰が? 誰と?
「申し遅れました、榊原洸平の妹です」
彼女はそう言うと、財布から免許証を取り出して私に見せてくれた。カードには〝榊原 陽子〟とはっきり印字されている。
「信じてもらえますか?」
「え、ええ。もちろん」
免許証まで見せられてしまえば信じるしかない。



