でも美味しいって言ってくれるだけマシかなぁ、と現実逃避をしてみても始まらない。お客さんは私が女将の孫だから優しく評価してくれるだけなんだから、それに甘えたらいけない。
私は今日も目をこすりながら木札を〝開店〟にして店に戻る。今日こそお祖母ちゃんの味を再現できた……と思う。
いやいや、ネガティブな想像は止めよう。できるだけポジティブな想像にして……例えば常連の皆さんに、そうだよこの味だよこの味って言ってくれる笑顔とか。
うん、気分が上がってきた。こういうときにお客さんが来てくれれば最高なんだけど。
「こんばんは」
「いらっしゃいませ!」
祈りのような望みに、神様は気まぐれを起こしたらしい。私とあまり変わらない年頃の女性客が入ってきた。
「お好きな席にどうぞ、おかけください」
愛想良く促すと、彼女はカウンターの真ん中に座った。厨房がよく見える位置だ。
「こちらお品書きになります、ごゆっくりどうぞ」



