暗闇だから、怖くなかった

 


 どこで祖父の死を知ったのか、そのストーカーは彼女にメールを送るようになった。主だったSNSはブロックされていたため、唯一使えるメールアドレスを利用したのだろう。

 
「引っ越しすれば良いんでしょうけど、祖父と過ごした家を処分したくないんです」


 わがままですけど、と続けた彼女を俺はさえぎった。


「わがままなんかじゃありませんよ、むしろストーカーのせいなのに処分なんかしたら駄目です」


 俺は確かにそう言った。この時の俺は、悪いのはストーカーなんだから高槻さんが大切な家を手放す必要なんかない、と義憤に駆られていたからだ。

 ストーカーのヤバさや怖さなんて微塵もわからず、彼女が受ける被害なんて軽く考えていたのだ。

 その後、俺はこの言葉をずっと後悔することになる。


「ご自宅付近のパトロールを強化します」


 俺はそう伝えて彼女を帰した。