俺は警備員として働く前、警察官として働いていた。普通の巡査で、世間一般で言うところの〝交番のおまわりさん〟というやつだ。

 仕事の内容はまぁ、平和なもので道案内とか落とし物の受け取りとか、自転車に乗って巡回とか、大きな事件や事故に遭遇したことなんてなかった。


 あの日までは。


 あの日は確か、交番で落とし物を受け取っていた。ATMでキーケースを見つけたというお婆さんが持ってきてくれて、詳しい状況を聞き取っていた。


「ありがとうございました」


 お婆さんを見送った俺に、見計らったように一人の女性が近寄ってきた。長い髪にロングスカート、清楚で穏やかな印象の女性だった。

 その女性──高槻真知子さんと言った──は元恋人からのストーカー行為に悩まされているのだと相談をするために待っていたと言う。


「さっきのお婆さんに丁寧にされてましたよね。信じられると思って」