暗闇だから、怖くなかった




「榊原さん、電気が復旧するまで──」


 動かないでいましょう、と提案しようとした。

 止めるように片方の手が頬に触れ、唇に触れた。


「あっ」


 声に出したのか、出してなかったのか。

 自分でもよくわからない。


「榊原さ」


 最後まで言わせてもらえず、口を塞がれてしまう。柔らかくて、カサついていて、温かい。

 私は手を離すと、彼の首に手を回した。骨が浮き出た部分を指でなぞる。ピクリ、と跳ねる肩に思わず笑ってしまう。

 榊原さんは呼応するように私の髪に片手を差し込むと、舌を絡ませてきた。水音が頭の奥で弾ける。

 もう片方の手がトレーナーの中に滑り込んできた。指が探るように動き、ホックに触れる。



 途端に、明るくなった。



 二人して、示し合わせたように飛び退いた。心臓が暴れて耳元で鳴ってるみたいだとか、いきなり明るくなって眩しいだとか、色々あるけど一番に思ったのは。



──魔法が解けてしまった。