私がそんな空想を繰り広げている間に、榊原さんはお茶を飲み終えたらしい。パン、と手を合わせる音と、「ごちそうさまでした」という声が聞こえてきた。
「お粗末様でした」
「……その、いくらか払っていいですか?」
榊原さんは眉を寄せて、「どう考えても三千円以上は飲み食いしてる気が……」と首を捻った。
「いいんです、今日だけ食べ放題です」
「小料理屋で食べ放題か……」
私は彼のセリフに真剣な顔をして、「ありですね」と呟いた。
「一ヶ月に一度、そういう日を設けるとか……」
「あれですか、ビュッフェみたいにカウンターに料理並べて」
「その場で食べても良いし、持ち帰りも可」
「持ち帰りもできるとなると制限設けないと」
私たちは夢中になって話し合った。〝店の人間と客〟ではなく〝森悠宇と榊原洸平〟として恩を返すために母屋に呼んだのに、普通におしゃべりして楽しむのは違うんじゃないか、と悩む自分は無視だ。



