その事実に口の中がひどく乾く。
「榊原さん、ありがとうございました」
感傷にひたっていた俺を、森さんの言葉が現実に引き戻した。顔を横に向けると森さんのやたら静かな目と合う。
「タクシー代は必ずお返しします」
「ああ……やっぱりいいです。たかだか三千年くらいでしたし」
「いけません、こういうのはちゃんとしないと」
これ押し問答になるな、と予感した俺は苦しまぎれの折衷案を出すことにした。
「でしたら夕飯を食べさせてくれませんか」
「え」
「三千円分作ってもらうっていうはどうですか?」
最後に「森さんが良ければの話ですけど」と付け加えて反応を待つ。彼女は視線をあちこちに飛ばして、最後には覚悟を決めたように頷いた。
「では三千円分、今夜食べに来てください」
「ありがとうございます」
その言葉と同時に腹が鳴った。こんな状況だというのに、結構大きめの虫が騒いで俺は頬が熱くなった。



