駅を降りて早足でファーストフード店とコンビニの前を抜ける。この路地を曲がればもう〈春涛〉だ。
「わっ」
「うおっ」
向こうから来た人と鉢合わせしそうになって思わず大声を上げる。非礼を詫びようと顔をよく見れば、森さんがぽかんとした顔で俺を凝視していた。
「榊原さん?」
「あ、ええ、どうも……」
森さんはトレーナーにスウェット、すっぴんに髪をひとつに括ってブルゾンを羽織っていた。まさに着の身着のままの姿だ。
「あの、何かあったんですか?」
「ええ、病院から連絡があって」
よく見れば顔は真っ白だった。最悪の想像が膨れて、弾けそうになる。
手を握りしめる。爪が食い込んだ痛みで気を逸らし、森さんに大通りの方角を指差した。
「大通りでタクシー拾いましょう」
俺がそう提案すると、彼女の目は暗くなって首を横に振った。
「バスで行きます、お金ないんで」



