〈春涛〉まで送り届けたはいいが、自宅まで帰っても俺は落ち着かないままだった。

 彼女はぎこちなく笑って平気な様子をアピールしていたが、無理をしているのは明らかだ。やっぱり強引にでも一緒にいるべきだったかと思ったが、そんなことをすれば余計な負担を強いるのではないかと不安が過ぎった結果、すごすごと帰宅してしまった。


「あれ……お兄ちゃん、デートは?」


 ルームシェアをしている妹はきょとんとした顔で俺を出迎えた。普段なら「なんだ、振られたの?」とデリカシーも何もあったもんじゃないセリフを吐いてくれるのに、今日は妙に神妙な顔つきで俺を見つめている。


「いや、ちょっとな……気にしないでくれ」

「うん、気にしたくないけどさ」


 妹はそこで言葉を切ると、俺の目をしっかりと見据えた。


「あの日と同じ顔してるよ」