「今日は他の店探すわ……また明日ね」

「ええ、また明日」


 いつも、ほろ酔いの長田さんを見送るのと同じように頭を下げて見送った。こうして常連さんが心待ちにしてくれているんだから、弱気になっている暇なんてない。


「……よし、保存できる料理に変更しよう」


 わざと明るい声を出して自分を奮い立たせる。もしお祖母ちゃんに悪い病気が見つかって……とかは考えないように意識して、料理とその後の掃除に集中しなくては。

 私は厨房に入って手を洗う。いつもと違って一人きりの料理は緊張するけれど、今までの経験がある、きっと大丈夫。

 肉じゃが、茶碗蒸し、唐揚げや味噌汁、おにぎりも作っておく。きんぴらごぼう、ほうれん草のおひたしも忘れない。

 落とし蓋をしながら榊原さんの顔を思い浮かべた。肉じゃがと茶碗蒸しを美味しそうに平らげて、ご馳走様、と手を合わせたときの姿はまだ鮮明な記憶として残っている。