暗闇だから、怖くなかった




 元から心臓が弱くて、家で洗濯物を干しているときに心臓発作を起こしてしまった。私は卒論があり大学図書館に缶詰になっていて、買い物に出ていたお祖母ちゃんが帰ってきたら、倒れているお母さんを見つけて……救急車を呼んだけど、手遅れだった。



──あの子には可哀想なことをした。



 お祖母ちゃんの丸まった背中と、ぼんやりと呟いた一言を思い出す。

 その頃はまだ生きていたお祖父ちゃんと、お祖母ちゃんが葬式や通夜を取り仕切ってくれた。私は弔問客に出すお茶や食事の準備にいっぱいいっぱいで、十分に悲しむ時間はなかった。

 でもそれで良かった。向き合うにはあまりにも辛すぎる現実だったから。

 それでもやっぱり疲れは溜まるし、お腹も空いてしまう。

 弔問客を見送って、少し休憩しようと母屋に戻ったときだった。

 お祖母ちゃんたちにも休もうと言いに仏間に向かう。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが話しているのが聞こえてきた。