「そうですね、酔っ払って醜態さらさずにすみます」


 私が口元を押さえながらそう言うと、榊原さんは少しだけ目を丸くした。


「酒癖悪いんですか?」

「上機嫌になってすぐ寝ちゃうんです」

「可愛いじゃないですか」


 榊原さんが目を細めてそんなことを言うものだから、ノーガードだった私は危うくノックアウトされるところだった。


「変な鼻歌とか歌ったり、身体をゆらゆらさせたりするんですよ」

「やっぱり可愛いじゃないですか」


 朗らかで嫌味のない笑い方に、私は心臓が止まってしまうかと思った。


「榊原さんは? お強いんですか?」


 これ以上は持たない。色々と。

 とにかく彼の可愛い攻撃から逃げようと、榊原さん自身について訊ねてみた。


「そうでもないです、強いて言えば笑い上戸ですね」

「箸が転がっても可笑しい感じですか?」

「流石に箸はないですけど……沸点は低くなる感じです」

「榊原さんのが可愛いじゃないですか」


 お返しとばかりに「可愛い」と返せば、見計らったように携帯が鳴った。