暗闇だから、怖くなかった




「美味い!」


 あぁともはぁともつかないため息を吐き出しながら榊原さんは笑った。そのしみじみした調子に私もグラスを傾けた。


「良い世の中になりましたねぇ……」


 真っ昼間からお酒──ノンアルではあるけれど──を飲めるだなんて、とんでもない贅沢をしている気分になる。しかもこんなお洒落なカフェで意中の人と一緒だ。


「ノンアルがこんなに普及しましたからねぇ……」


 うっとりと榊原さんが黄金色の液体を見つめる。見た目は普通のビールと何ら変わりはない。


「長田さんはこんなのはビールと認めないって言ってたな……」

「いいじゃないですか、ノンアルのお酒」


 榊原さんは心なしか少しムッとした口調で言った。


「まぁ、味はビールなのに酔わないのは変な感じがするって人もいますね」

「そのおかげで助かってる人は多いですよ」


 俺たちとか。榊原さんが少し戯けたように反論したので私は思わず吹き出してしまった。