「すみません、少々よろしいですか?」


 体格の良い警備員さんは、後からやってきた警備員さんに男を託すと私のほうに近寄ってきた。近くで見ると身長も高い。こんな状況じゃなかったら、無意識に後退りしていただろう。


「……何でしょう?」

「ああ、その、少しお話を聞かせてほしいんです」


 私の警戒心が伝わったのか、その人は声を和らげた。眉尻も下げてはにかむように笑う。

 黒褐色の瞳が穏やかな夜のようで、ほんの一瞬だけ息を忘れてしまう。途端に暴れ出す心臓を抑えたくて、不自然ではないように胸の辺りを両手で押さえた。


「話、ですか」

「時間は取らせませんので」

「別に何か盗られたとかはないです」


 これ以上ここにいたら顔が赤くなりそうだ。このまま他人として別れるだろうけど、妙な行動は取らずに帰ってしまいたい。


「そうではないんです」


 彼は頬を掻きながら続ける。


「下手すると、傷害罪に問われるかもしれませんので……」