葉月さんが俺の後ろにある壁に視線を投げかけた。俺もつられて振り向くと、そこには年配の夫婦と妙齢の女性、そしてまだ少女の悠宇さんが写った写真が飾られていた。


「亡くなってからはランチタイムなくなっちゃって……もしかしたら、女将さんは閉店する準備でもしてるのかもしれないって思ってました」

「ああ、ゆっくりと開ける時間を減らして……」

「そうですね、悠宇も心配してました」


 葉月さんはそこで言葉を切ると、俺に身体ごと向き直った。有無を言わせない気迫に、俺も身体ごと向き直って背筋を伸ばす。


「あの子、本当にお祖母ちゃん思いの良い子なんです」

「はい」

「このお店も大好きなんです、後を継ぐんだってずっと言ってて」

「はい」

「だから、もしも自分を一番に優先してほしいとか、軽い気持ちで遊ぼうとか」

「待ってください」

「半端な気持ちで相手にする気なら、これ以上関わらないでもらいたいんです」


 俺は葉月さんの目を見据えた。射抜くような眼差しから逃げることなく、静かに頷いた。