暗闇だから、怖くなかった




 地図を頼りに路地へと入っていく。ファーストフード店やコンビニを抜けた先に、例の店はあった。

 白地に藍色の字で〈春涛〉と染め抜かれている。名刺と同じくシンプルだ。営業中と書かれた看板を横目に、俺は引き戸を開けた。


「いらっしゃいませ」


 そこには若い女性客が一人と、エプロンを着けた初老の女性が会話していた。彼女が例のお祖母さんだろう。

 女性客から一つ開けて座る。この字型のカウンターはオレンジ色の照明に照らされ、暖かみと清潔感の両方を主張していた。店内にはBGMなどはないが、それがまたこの店の落ち着いた空気を守っている。

 良い店だな。素直にそう思えた。


「お品書きになります。お決まりになりましたらお声がけください」


 女将さんの上品で柔らかい声と共にメニューを渡される。その中に求めていた肉じゃががあった。だがどうせなら他の料理も食べてみたい。