川口は納得したらしく、片手をヒラヒラさせて俺を見送った。俺も片手でそれに応えると、三階まで早足で向かう。
ショッピングモールは今日も騒がしく、店内放送ではどの店で何のセールをしているかをやたら高いテンションで流している。その喧騒に揉まれるうちに、さっきまでの苦味は薄れていった。
「すいません、クリスマスツリーってこっちで全部揃いますか?」
「こちら最新型のモデルでして……」
「おもちゃは一個だけよ!」
ありきたりな会話に安穏とした雰囲気。平和そのものの光景に、鼻をくすぐる香りがある。さっき嗅いだような気もする……。
チラリとフードコートに視線を移せば、お客が今まさに肉じゃがを渡されているところだった。温かいうちにと思ってすぐ頂いたが、少し冷めていても味が染み込んでいて十二分に美味かった。
出来立てならどれだけ美味いだろう。想像するだけで腹が鳴りそうで、今日絶対に彼女の小料理屋に寄ると決意した。



