春涛の名刺はシンプルなもので、店名と電話番号、簡単な地図だけが載っていた。休憩時間に席で少し調べてみると、春先に岸辺に打ち付けられる穏やかな波のことを示す季語だと出てきた。
「なんだ、さっそく食いにいくのか?」
「川口」
後ろからの声に俺は振り返る。昼休憩中らしい同僚は、俺の手元にある名刺を箸で指した。もう片方の手ではカップ麺が湯気を立てている。
「まぁな、お前も一緒にどうだ?」
暗にカップ麺ばかりでは身体に悪いと伝えてみたが、川口はニヤリと笑った。
「お邪魔虫だろ、行くなら別の日にするよ」
「何だよ、お邪魔虫って」
「いやいやいや、お前わかるだろ?」
そう言ってまた箸で紙袋を指した。クリーム色のそれは少し皺がよっている。
「あの人、絶対お前に気があるって」
「いやいやいや」
俺は反射的にそう返したが、実のところ満更でもなかった。



