クローゼットに仕舞ってから厨房に戻る。聞こえてきた男の人の笑い声に、島田さんが来たのかとカウンターに顔を出した。


「こんばんは、お邪魔してます」

「……いらっしゃいませ!」


 私は瞬時にとびきりの笑顔で榊原さんに応じた。今日は落ち込んだり舞い上がったり、浮き沈みの激しい一日だ。


「悠宇ちゃん、知り合いの方?」

「うん、この間の警備員さん」

「まぁ、貴方が……」


 お祖母ちゃんは微笑むと、美しい所作で頭を下げた。


「孫を助けてくださったそうで……本当にお世話になりました」

「いえ、むしろ助けてもらったのは俺のほうなんです」


 榊原さんは私に笑いかけた。優しい暗闇の目、直線気味の眉、鼻の形が少しわし鼻なのも可愛らしい。


「彼女がひったくりを捕まえてくれて、俺はそれに乗っかっただけなんです」

「大変だったね、悠宇」


 葉月も加わって、話題はこの間の事件から軽犯罪が起こりやすい場所や時間帯についてに移っていった。