暗闇だから、怖くなかった




 思わず漏らしたひと言に、葉月は眉根を寄せて口を開いた。


「悠宇ちゃん、ただいま」


 お祖母ちゃんの声が、引き戸を開けるガラガラという音と一緒に響いた。


「ああ、お帰り」

「女将さん、お帰りなさい」


 私たちの声は二人して上擦っていたけれど、お祖母ちゃんは気にもせずにクリーニング屋さんからの荷物を掲げた。


「悠宇ちゃんは預けたのダウンコートだけだったわよね? 葉月ちゃん、いらっしゃい。何にする?」

「あー、鯛茶漬けで」


 私は祖母からダウンコートや他の衣類を受け取りながら、何とも言えない気分で店の裏に引っ込んだ。何年もこの店で働いて、調理師免許だってあるのに料理を任せてもらえない。

 この間、葉月のアパートに遊びに行ったときに料理を作ったら美味しいって言ってもらえたし、常連の人たちにももっと任せてやれって応援してもらえてるのにな……。