人に足を引っ掛けたのは初めてだった。
誤解しないでほしい。いじめとか嫌がらせなんかじゃない。むしろ逆の、人助けのためだ。
事の始まりは騒めきと悲鳴だった。ショッピングモールの雑貨屋に向かおうとしていた矢先に、通路の向こうから全力疾走をかましてくる男を見つけた。
周囲の人たちが何事かと固まっている中で、私は自分でもびっくりするほど冷静に、持っていた傘を構えた。
持ち手は下に。
男が迫る。
──ここだ!
焦茶のハンドバッグが宙に舞った。その真下では男がピカピカの床でうつ伏せになり滑っている。
──悠宇ちゃん、お手柄よ!
頭の中でお祖母ちゃんが親指を立てた。
「確保!」
空気がビリビリするような声に思わず身がすくむ。視線の先では男に警備員さんが覆い被さっていた。体格が良く、男がすっぽりと隠れている。その近くにもう一人の警備員さんがやってきて、何やら二人で話していた。



