早朝、白んだ空の下をシュゼットは宮殿まで歩いて帰った。
 メグは伝言通りシュゼットが宮殿を出たことを誰にも話さないでいてくれたが、心配して門のところで一晩明かしていた。

「おう――シュゼット!」

 シュゼットの姿が見えると、メグは傘を放り投げて駆け寄り、がっしりと抱きしめてくれた。

「よかった……。朝までにお戻りにならなかったら、ラウル様にご報告しようと思っていたんですよ?」
「心配かけてごめんなさい、メグ。どうしてもここから離れたかったんです」

 一目をはばかって部屋に戻ったシュゼットは、入浴して昨日の泥を洗い流した。
 そして少し眠った。

 昨晩、エリックはベッドを貸すと言ってくれた。
 けれど、彼の匂いに包まれると苦しくなりそうだったので、椅子に座ったまま夜を明かしたのだ。

(ダーエ先生は一晩中、私のたわいない話に付き合ってくれました)

 夫が少しも気にかけてくれないこと。
 結婚式から二カ月以上が経つのに、まだ初夜も迎えていないこと。
 夫の母にそれを知られていて、子どもができないのはお前に魅力がないせいだと罵られたこと――。

 思い出すだけで涙が出る話を、エリックは暗い顔で噛みしめるように聞いてくれた。

(それだけで十分です)