「――そんな男は捨てればいい。幸せになれない結婚なんか続ける意味がない」
「離婚してしまったら私の居場所はどこにもないんです。実家には戻れませんから」

「なら、ここに来ればいい。俺が君の居場所になる」

 甘い誘いに、シュゼットの呼吸が止まった。
 エリックは、固まるシュゼットの頭に額をつけて懇願する。

「俺は図書館で会った日から毎日、君を想っていた。君が結婚する前に出会えたらと自分の間の悪さを恨んだ。だが、やっと俺の番が来たらしい」
「ダーエ先生、何を……」

 目を丸くして振り返ったシュゼットを、エリックは潤んだ瞳で見つめ返した。

「離婚してここにおいで。俺が君を幸せにする。君が好きなんだ」
「!」

 愛の告白だと分かった瞬間、顔がカッと熱を持った。
 エリックは、こんな自分を――醜い傷跡のある、つまらない女を好きだと言う。

 憧れの人に求められる喜びで、胸がはちきれそうだ。

「ダーエ先生……!」

 振り向いて彼の首に腕を回そうとしたシュゼットは、左手の薬指にある指輪を見ておじけずいた。

(できません)