シュゼットは一礼してミランダから離れた。
 そうでもしないと、みっともなく泣き叫んでしまいそうだった。

 早足で廊下をゆく。
 シュゼットのただならぬ様子を感じて、廊下に飾られた彫刻や絵画が心配そうな声をかけてくる。

(聞きたくないです)

 耳を塞いでがむしゃらに走る。
 足がたどったのは、いつか宮殿を抜け出すために通った道だった。

 脇門に行くと、例の門番がぽんぽんのついた帽子を被って立っていた。

「やあ、この前の……。今日はずいぶんと汚れてるな。それに、そのベールは?」
「っ、なんでもないです」

 シュゼットはベールを外して、サロペットのポケットに突っ込んだ。
 陽が落ちて暗くなってきたおかげで、泣き顔は見られずにすんだようだ。

 そもそも門番は、シュゼットを見ていなかった。
 手に持った鏡に帽子を映してデレデレしている。

「これ、誕生日にあげた手袋のお礼にって彼女がくれたんだ。冬用なんだけど嬉しくって被ってきたんだよ。これから外出かい?」

「はい。また許可証はもらえてないんですけど……」
「いいよ、通りなよ。悪人じゃないって分かってるから大丈夫。おれはもう交代時間だけど、次のやつにも女の子が来たら通してやってって言っておくから」

「ありがとうございます。あと、伝言を頼めますか。王妃様付きのメグという侍女に、少し息抜きをしにいってくるから大騒ぎしないでほしいと」
「わかった。必ず伝えておくよ」