次の日の午後。

 シュゼットは実家から持ってきたリメイク品のサロペットを身につけ、ベールの上に麦わら帽子を被って宮殿の脇にある庭園にやってきていた。

 先にきて薔薇の手入れをしていたリシャールは、その姿を見て驚く。

「お、王妃様?」
「こんにちは、リシャール様。今日はとってもいい天気の農作業日和ですね」

 リシャールは、麻のズボンをはき、軍手をはいて枯れた葉や茎を集めていた。
 陽に当たった黄金色の髪はまばゆく輝いて、彼が泥に汚れていても王子だと教えてくれる。

「こんな服装ですみません。王妃様はどうしてここに?」
「薔薇を育てるお手伝いしたいと思ってきたのです。やはり、咲く前につぼみがしおれてしまっているようですね」

 晩餐会で生けられていた薔薇は一見すると綺麗だったが、近くて見ると花びらの端が変色していた。

(庭に咲いている残りの花も同じような状態だと予想していましたが、けっこう深刻なようです)

 薔薇の木には多くのつぼみがついていた。しかし、その大部分は咲くことなく変色して枯れてしまっている。

 シュゼットは、リシャールのそばにあるバケツをのぞき込んだ。
 摘み取ったつぼみと、小さな脇芽が入れられている。

「余分なつぼみや脇芽を摘んでありますね。この作業をしないと栄養が取られて綺麗な花が咲かないと、庭師に教えてもらったことがあります。それなのに、どうして枯れ落ちてしまうのでしょうね」

 リシャールは、がっかりした様子であまり花が咲かなかった薔薇の木を見下ろした。

「手を尽くしたんですけど、僕ではもうやりようがありません。ラウルに相談したら、木にも寿命があると言われてしまったんです。お母様のように、この木ももうすぐ死んでしまうんでしょうか?」

 木にも寿命があるのは事実だ。
 長生きする薔薇の木で十年から二十年ほどである。

(リシャール様が十歳ですから、そろそろ寿命ということも考えられますが……)

 今にも泣き出しそうな義弟の姿を見たら、シュゼットはもう黙っていられなかった。

「聞いてみましょうか」

 物と話せる能力は秘密にしなければならない。
 そうしないと実家で〝おさがり姫〟と虐げられていた頃の自分に逆戻りしてしまう。

 でもシュゼットは、自分の未来を犠牲にしてでもリシャールの心を救いたいと思った。

「え? 聞くって、薔薇にですか?」

 混乱するリシャールに頷いて、シュゼットは問いかける。

「薔薇さん、上手に咲いてくれないのはなぜですか?」