「うっ、うう……。今日はラウルも来てくれるって言ってたのに……」

 シュゼットが席を立って近づいていくと、彼の胸元で揺れるペンダントが話し出した。

『それ以上、この子に近寄らないで!』

 十字架をかたどった銀のペンダントは、深みのある女性の声だった。
 シュゼットが思わず足を止めると、ペンダントの声が和らいだ。

『リシャール、泣くんじゃないわよ。弱いところを見せたら、この王妃様もミランダみたいにあんたを虐めるかもしれないわ』
「え……?」

 話の内容にびっくりするシュゼットに、ペンダントの方も『あんた、あたしの声が聞こえるのね』と驚いた。

『あたしはね、亡くなった側妃様の形見なのよ。側妃様が亡くなってからはこの子と一緒にいるの。だから、ミランダとアンドレが後ろ盾のいなくなったこの子にどれだけ酷いことをしたか知っているわ』

 ペンダントの声がわなわなと震える。

『食べ物に毒を入れようとしたり、母親と一緒に手入れしていた薔薇を勝手に切ったりしたの。この子がルフェーブル公爵の元に移ったのは命を守るためよ!』

 そんなことがあったのかと、シュゼットは胸を痛めた。

 王妃の侍女だった側妃は、没落貴族の家の娘だったので宮殿内での立場が弱かったという。

(一説によると、王太后様の嫌がらせによって病みつきお亡くなりになったそうです)

 側妃亡きあとのリシャールもまた、王太后の標的になったのだ。
 そして、ルフェーブル公爵家に引き取られた。

(まさか、リシャール様も家族からつらい目にあわされていらっしゃったとは)