まずは王太后に失礼がないように振る舞おう。
 失敗に付け込んで、メグたちが因縁をつけられないように。

 遅刻なんて言語道断だ――ふと時計を見たシュゼットは困った。
 まだ着替えもしていないのに、晩餐会がはじまるまであと二時間しかない。

「支度を急いでいただけますか?」
「はっ。そうでした!」

 メグたちが大慌てでやってくれたおかげで、なんとか予定に間に合った。


 宮殿には、王族が集まって食事をとるためだけの晩餐室がある。

 金でできたテーブルには真っ赤な薔薇の花が生けられ、上等な織物を使ったテーブルライナーの色は絨毯と同じ深紅。
 並べられたナイフとフォークは、どれもピカピカに磨き上げられていた。

(今日の座席は特殊ですね)

 世話人に案内された席についたシュゼットは短いベール越しに周囲を見回した。

 テーブルの中央にアンドレ、両脇に宰相と王弟が座っている。
 その向かいに王太后ミランダとシュゼットが肩を並べる形だ。

 ラウルの姿はなかった。仕事のため不参加と聞いて、シュゼットは残念に思った。
 この場に彼がいてくれたら、いくぶんか安心できたのに……。

 シュゼットはちらりと王太后を見る。
 自慢の茶髪を夜会巻きにして、紫色の瞳を際立たせる化粧をほどこしたミランダは、非常に美しくて気が滅入る。

(とうてい五十歳間近には見えません……)