結婚式から約二カ月が経ち、国王と近しい人々を招いて晩餐会が行われることになった。

 参加者はシュゼットとアンドレの他、アンドレの母親である王太后ミランダ、今は宮殿を出て暮らしている王弟リシャール。
 さらに王家との関わりが深い宰相のルフェーブル公爵も出席する。

 この面子だとラウルもいるはずだ。

(この間、助けてもらったお礼を言えていないので、どこかで話せるといいのですが……)

 シュゼットはラウルが怖くて苦手だった。

 いつも顔をしかめているし、話し方も堅苦しい。
 なにより鋭くつり上がった目が恐ろしい。背中を見せたら刺されそうな迫力があるので、ラウルの顔は直視しないようにしていた。

 けれどあの一件で、彼が本当は優しい人なのだと気づけた。

 アンドレに避けられているのはシュゼットのせいではないと、はっきり言ってくれたのは彼だけだ。
 味方がいる。
 それだけで、シュゼットは鳥籠のような宮中で頑張れそうな気がした。

「王妃様。今日はいつもの晩餐とは違いますから、気合いを入れてお洒落しましょう。あの王太后もいらっしゃることですし、負けていられません」

 着替え用の衝立の奥に入ったシュゼットは、腕まくりをしたメグの言葉に首を傾げた。

(あの?)

 ミランダのことはたびたび見かけていた。

 結婚式の後に形式ばった自己紹介もしている。新たに王家に入りますと挨拶するシュゼットに、ミランダは弓のような眉をしならせて笑いかけてくれた。
 金糸を贅沢に使ったドレスはボリューミーで、ミランダの手を握って一礼するのは一苦労だった。

「あの王太后とはどういうことですか?」