シュゼットは読書中の興奮を思い出すように感想を述べていった。

 王妃に恋をしてしまった騎士は、宮中で辛い思いをしている彼女のために奔走する。
 争う貴族間の調停に動いたことも、王妃を守るために戦場を駆け抜けたこともあった。

「あんな風に好きな人のために生きられたら、どんなに素敵なことでしょう。読んでいて、私もあの騎士のようになりたかったんだと気づいたんです。たとえ叶わなくてもいい。心から好きと言える人のために命をかけて戦って、最後には相手の腕の中で永遠の眠りにつくんです」

 切なく愛おしいラストシーンを思い出して、シュゼットは胸を震えさせた。

『騎士は王妃に恋してる』は純愛の、そして悲恋の物語だった。

 主人公の騎士は、王妃を敵襲から逃がす最中に致命傷を負ってしまう。
 王妃に自分を置いて行ってくださいと告げる騎士。
 しかし王妃は彼の最後を看取りたいと抱きしめる。
 言い残すことはないかと言われ、最後にどうしても知っておいてほしいと自分の想いを伝える騎士。
 彼の献身に心から感謝していた王妃は、私も愛していると告げてキスを贈る。
 目を閉じた騎士は、そのまま、大好きな人の腕の中で、幸福に包まれながら絶命した――。

 読破したシュゼットは、瞳から滝のように落ちる涙を止められなかった。
 メグが目を真っ赤にするわけだ。

 真面目な顔でシュゼットの感想を聞いていたエリックは、少し目をうるませていた。

「ああ、気にしないでくれ。嬉しくて感極まった」

 そして、指で目頭を押さえて「あの話を書いてよかった」と呟く。

「君をこんなにも喜ばせられたのなら本望だ。俺は、あの騎士のようにここで死んでもいい」
「ええっ。死んではだめです。長生きしてたくさん小説を書いてください!」

 濃い紅茶も禁止です!
 口走るシュゼットの唇に、エリックは人差し指を押し当てて薄く笑う。

「しーっ。あまり騒ぐと店主が来る」
「!」