「は、はい。ダーエ先生が通い詰める喫茶店がどうしても気になって。私は先生の大ファンなので」

 エリックに会いにきたのではなく、彼の行きつけが知りたかっただけだと強調する。
 彼にとってシュゼットは愛読者の一人であって、それ以上の興味を持たれているとは思っていないはずだ。

(近づきすぎて嫌われるくらいなら、ほどほどに友好的でいいんです)

 エリックはシュゼットに向かいの席を勧めた。
 素直に座ったシュゼットは、彼の前にある半分ほどになったスフレケーキの皿に目をとめた。

「おいしそうですね。実は、私もさっき注文してきたんです」
「それはいいな。俺はこれが好物だから、君にも気に入ってもらえたら嬉しい。好きな物が一緒だと仲良くなれる気がするんだ」

 愛おしそうに微笑まれて、シュゼットの胸はくすぐったくなった。
 遠回しに、仲良くなりたいと言われているような気がしたのだ。

 思わず小説家と読者の枠を超えて、恋人みたいな関係を想像してどぎまぎした。
 赤くなっていると、扉を開けて店主が入ってきた。

 シュゼットの前に、一人分の茶葉で入れた紅茶とカップ、丸いスフレケーキを出して、碧色の砂が入った砂時計を逆さにする。

「砂が全部落ちたらカップに注ぐんだ。そこのお坊ちゃまはわざと長く置いて濃く出したのが好きだが、儂に言わせればあれば邪道だよ」
「別にいいだろう。俺は少し渋いくらいが好きなんだ」

「そんな飲み方してたら眠れなくなる。睡眠不足は早死にの元だぞ。長生きしたけりゃ、彼女さんも止めてやりな」

 急に話を向けられて、シュゼットはビクッとした。

「わ、私は彼女ではありません!」
「すぐにそうなるさ。ゆっくりしていきな」