「ここ……でしょうか?」

 素朴なワンピースを着たシュゼットは、王都の南にある森の近くで立ち止まった。

 目の前には、オレンジがかったレンガを積んだ広めの一軒家がある。
 ヒイラギの生えた庭も立派だが、渡したロープには洗濯物が干してあった。

 民家にしか見えないが、エリックが訪れる喫茶店の住所はここで間違いない。

(からかわれたのでしょうか?)

 誠実そうなエリックがそんなことをするとは思えないけれど……。

 辺りをうろうろしていたら、一軒家からスカーフで作った三角巾を頭に巻いた、かっぷくのいいおばさんが顔を出した。

「うちに何か用かい?」
「いいえ。この辺りにある喫茶店を探しているのですが見当たらなくて。何かご存じでしょうか?」

「喫茶店なら上だよ。上」
「上?」

 おばさんが指さした方を見上げたシュゼットは驚いた。
 二階のバルコニーに、ティーカップの形をした看板がくくりつけられていた。

「偏屈なおじいさんがやっている喫茶店でねえ。噂を聞いてやってきた客がすんなり入店できないようにしてんのさ。でも、いいところもあるよ。あたしら一家を一階に住まわせてくれるところさ。子だくさんだから、普通の平屋じゃ狭くてね。ぼうや、出てきちゃだめだよ」

 おばさんの後ろから、二歳くらいの男の子が親指をくわえてこちらに来たそうにしている。
 シュゼットが手を振ると、無邪気に振り返してくれた。

「相手してくれてありがとうね」