この部屋でいちばん古株の本棚がしゃべった。
 二世紀前に作られた家具で、たくさんの本を懐に入れてきたせいか、とても物知りのおじいちゃんだ。

「ただいま本棚さん。見てください。新入りのみなさんです」

 パッチワークして作ったベッドカバーに籠の中身を広げると、今度はワードローブがはんなりと口を出した。

『またこんなに? わたくしのお腹はもういっぱいで入りませんわ』

 ワードローブはおさがり品でいっぱいで、棚板がミシミシなっている。
 ドアが壊れたのも、シュゼットがカルロッタに押し付けられた品を無理に押し込めたせいだ。

 入りきらない服たちは木箱にしまっているが、それも十個を超えている。

(お姉さまの服はそのまま着られる物が少ないんですよね)

 カルロッタは長身で豊満な体型だし、彼女の趣味に合わせてレースやフリルがわんさか付いている。
 小柄でやせぎすのシュゼットが着るには、余計な装飾を取りのぞいて自分サイズに直さなければ着られない。

 派手すぎて着用できない物は別の布製品にリメイクもする。
 たとえば、屋根裏中の窓を塞いでいるカーテンやベッドに引いたパッチワークのシーツ、ぬいぐるみなどに。

 しかし、おさがりが出る頻度と量がはんぱないので、夜な夜な作業しても追いつかないのである。

『持てあますなら売ったらいいじゃない!』

 縫い針のとがった声に、シュゼットはふるふると首を振った。

「みんな、お姉さまからいただいた物です。二束三文で売りたくありません」

 カルロッタはシュゼットを嫌っているようだが、シュゼットは姉を嫌いではなかった。

 これでも血を分けた二人きりの姉妹だ。
 物心つく前に撮られた写真では、カルロッタは大事そうにシュゼットを抱きしめていた。
 今では腫物扱いしてくる両親の目も優しかった。

 家族がおかしくなったのは、シュゼットが四歳、カルロッタは十歳の頃。

 物覚えがよくておしゃべりが大好きだったシュゼットは、当たり前のように物と会話するようになっていた。
 お人形と話しながらおままごとをして、屋敷のなかを探検するときは絨毯や置物に道を聞いて歩く。

 物に対して話しかけるのは、子どもにはよくある行動だ。
 周りの大人は、シュゼットがつねに何かとしゃべっていても異能があるとは思わず、微笑ましく見守ってくれていた。

 しかし、その時間は長くは続かなかったのだ。