引き留めてする話ではないと分かっていた。でも、他に話のネタが見つからない。

 シュゼットはアンドレとほとんど顔を合わせないで生活しているのだ。
 夫が何を好きで、何に興味があるのか、妻なのに少しも知らない。

(どうか、お答えください)

 礼拝のときより必死に祈ると、アンドレは面倒くさそうに返事をした。

「そんな会話しかできないの? 醜いうえに、つまらない女」

 酷い言葉が、心に突き刺さった。

(醜くて、つまらない女……)

 自覚はあった。
 けれど、アンドレに指摘された衝撃に、シュゼットの胸は紐でぎりぎりと縛り上げられたように痛んだ。

 絶句するシュゼットに興味をなくして、アンドレは去っていった。
 後を追う侍従を押しのけて、メグが駆け寄ってきた。

「王妃様、お部屋に戻りましょう」
「はい……」

 踏み出した足はふらついていた。
 よたよた歩くシュゼットを見て、王太后の従者たちが嘲笑する。

「結婚相手があれだと国王陛下がお可哀そうだわ」
「どんなに綺麗なドレスを着ていても、肝心の顔が傷物じゃあね」

 投げかけられる罵倒に、シュゼットは唇を噛んで耐えた。

(動じてはいけません)

 ジュディチェルリ家で受けた仕打ちに比べれば、痛くも痒くもない――はずなのに、シュゼットはボロボロに傷ついていた。

 アンドレに突き刺された心が痛い。
 目に見えない血を流しているそこに、従者たちの罵倒というナイフが飛んでくる。
 王妃という席から動けないシュゼットはいい的だ。

 ざく、ざく、ざく。

 自分が切り刻まれていく音がする。

 痛い。苦しい。泣きたいのに泣けない。

 なぜなら、シュゼットは王妃だから。

 罵倒してくる相手が王太后付きなので、メグも言い返せない。
 シュゼットを支える手をぐっと握りしめて耐えていた。

(ごめんなさい、メグ。こんな情けない主人で――)

「何をしている」