ダーエからもらった新刊を宮殿に持ち帰ったシュゼットは、寝室でいそいそとネグリジェに着替えて休み、夜食を持って来たメグに差し出した。

「メグにプレゼントです」
「ど、どうしたんですか、これ!?」

 ダーエの新刊ではないですか、とメグは飛び上がった。

「運よく手に入ったんです。私は本を読む気分ではないので、メグが先に読んでください」
「いいんですか。ありがとうございます!」

 メグは本を宝物みたいに抱きしめて感激している。
 喜んでもらえてシュゼットはほっと胸を撫でおろした。

(宮殿を抜け出して街まで行った苦労が報われました)

 リメイク品以外で人を喜ばせられたのは、思えばこれが初めてだ。

 本が返還されたのは、それからわずか二日後。

 寝不足で目を真っ赤にしたメグが、感想を語り合いたいから早く読んでくれと懇願してきたので、今度はシュゼットの方が驚いてしまった。

「……そんなに面白かったんですか?」

「臨場感がすごかったです。遊びほうける国王の代わりに政治を動かす王妃が、忠臣である騎士に惹かれていくお話なんですが、国王がまるでアンドレ陛下をモデルにしたかのような愚王でして――」

「メグ」

 国王の悪口を言うものではないと視線でたしなめる。
 メグはゴホンとわざとらしい咳をして、乾かした髪を撫でるシュゼットに一通の手紙を差し出した。

「今日の昼間、ガストンさんから私のところに転送されてきました」

 そっけない白い封筒に差出人の名前はない。

(これは、もしやダーエ先生からのお手紙では?)