宮殿は石造りの城壁で囲まれている。
 出入口は正面にある正門と裏門、六つの小さな脇門だけだ。

 その全てに門番がいて、通行証を確認しなければ何人たりとも出入りさせてくれない。
 シュゼットが出向いて「私は王妃です。通しなさい」と命じても通れないのである。

 そこで、シュゼットが実家から持ってきたおさがり品の出番だ。

 支度部屋のすみっこに積んでいた木箱から、リメイクして作った地味なワンピースを引っ張り出してベッドの下に隠しておき、昼食後に眠くなったと言って寝室に入る。

 もちろん嘘だ。

 そうと知られないように、わざとらしくあくびをしていたら、ネグリジェに着替えさせてくれていたメグに心配された。

「お珍しいですね。具合が悪いのでしたら医者を呼びますよ?」
「私は元気です。昨日は陛下を待って夜更かししていたので、そのせいで眠いんだと思います」
「そうでしたか……」

 夫が来ないこと持ち出すと、メグは辛そうな顔になってそれ以上は聞いてこなかった。

 傷つけて心が痛む。でも、これはメグのためでもあるのだ。
 着替え終わったシュゼットは布団に肩まで入って言う。

「とにかくぐっすり寝たいので、晩餐の時間になっても起こさないでくださいね。私が自然に目覚めて廊下に出るまで、誰も近づけないでほしいです。気が散って眠れないので」

「承知しました。おやすみなさいませ、王妃様」

 メグが一礼して部屋を出る。
 扉ががちゃんと閉まったのを合図にシュゼットは体を起こした。

「さあ、はじめましょう」