「行ってらっしゃいませ」

 深く頭を下げると、カルロッタはふんと鼻を鳴らして大股を開き、衣服の山を乗り越えた。
 部屋の扉が閉まったのを合図に、シュゼットは積み重なった物に駆けよる。

「みなさん、大丈夫ですか?」

 誰にでもなく話しかけると、少しの間をおいて小さな返事が聞こえてきた。

『おう、なんとかな』
『火にくべられなきゃ平気だよ』

 男前な低音を響かせたのは穴あきのショール。
 宿屋の女将風の口調なのはレースのドレスの言葉だ。

 それを皮切りに、転がる靴や日傘が乱暴に扱ったカルロッタへの恨みごとを並べはじめる。

 彼らの声はシュゼットにしか聞こえない。
 シュゼットは器物の声を聞く、一風変わった異能の持ち主なのだ。

「元気そうで安心しました。これから私の部屋にお引越しですよ。布類のみなさんは畳まれるのに協力してくださいね」

 シュゼットは、おさがりのワンピースの袖をぐいっとまくった。

 散乱したドレスを一つ一つ畳むのは重労働だ。カルロッタの服はフリルやレースがこれでもかと付いているので重いのである。

 額に汗を浮かべながら、焦ることなく丁寧に畳んでいく。
 左足と右足がばらばらに転がる靴を麻袋に入れて背負ったシュゼットは、畳んだ衣服をみっしり詰めた洗濯籠を両手で持ち上げた。

「新居にご案内します。揺れますが少しの間、我慢してくださいね」