シュゼットは鏡台の前でしゅんとした。
 自分付きの侍女しかいないので、ベールを被らずに傷跡を夜風にさらしている。

 落ち込むシュゼットを、ブラシを片付けていたメグが鼓舞する。

「今晩こそいらっしゃるかもしれませんよ。たずね人は油断した頃に来るって相場が決まってるんですから。ねえ?」

 しかし、侍女たちは話に乗ってこなかった。
 シュゼットの身支度にはメグの他に四名の女性がついているが、今日は顔色悪く足下を見つめながら部屋を出たり入ったりしている。

「どうかしましたか?」

 シュゼットに呼びかけられたソバカスの多い侍女は、ふにゃと泣き顔になった。

「申し訳ありません、王妃様! わたしの不注意でイヤリングの片方を落としてしまったみたいで!」

 侍女たちが忙しなく動いていたのは探し物をしているせいだったらしい。
 どうりでみんな、下を向いて歩いているわけだ。

(今日付けていたのは、蝶々の形をしたイヤリングでしたね)

 細く伸ばした銀を折り曲げて作った銀線細工の蝶に、シュゼットの瞳と同じ青い宝石をはめ込んで作られたイヤリングは小さい。
 明かりのとぼしい夜に見つけるのは難しい。

 侍女は震えている。シュゼットに叱責されるのが怖いのだ。

 シュゼットが身につけている宝飾品は、代々の王妃に受け継がれてきた物である。
 なくしたら始末書を書かされるだけでなく、場合によっては弁償しなければならない。

 すでに自分を責めている彼女をこれ以上包ませないよう、シュゼットは優しく励ました。

「小さな物でしたから落としても仕方ありませんよ。私が見つけますから安心してください」
「王妃様が!? 探し物なんてそんなことさせられません!」

 慌てる侍女をメグが制した。

「静かに。王妃様にはお考えがあります」