「ありがとうございます。お姉さま」

 小馬鹿にされているのを承知で、シュゼットはカルロッタにお礼を言った。
 姉の不用品を渡されるのには慣れっこだ。

 ジュディチェルリ家の子どもはカルロッタとシュゼットだけ。
 しかし、シュゼットの持ち物は、ドレス、靴、文房具、調度品にいたるまで全てカルロッタのおさがり品なのである。

 十八年前に生まれてからこれまで、新品を与えられたことは数えるほどしかない。
 歴史ばかり立派だが凋落の一途をたどる侯爵家において、姉妹のどちらも贅沢に着飾らせる余裕はなかった。

 それにカルロッタは幼い頃から飽き性で、つねに新しい物を欲しがる。
 六歳差で生まれた妹は、幼い頃から飽き性だった姉の物を押し付けるのにうってつけの相手だったのだ。

 カルロッタのお古で暮らすシュゼットを、いつしか使用人たちは同情と冷笑の意味をこめて〝おさがり姫〟と呼ぶようになった。

(おさがり姫……何度聞いても不思議なあだ名ですね)

 この呼び名は社交界にも広まっているらしい。
 他人事のように感じるのは、実際に呼ばれたことがないからだ。

 シュゼットが舞踏会や夜会に参加する時は、おさがり品の中でも特に流行遅れのドレスを着て姉より目立たないようにしている。
 そんな姿で姉の世話を焼いていると侍女の一人だと思われて、誰もシュゼットがジュディチェルリ家のおさがり姫だと気づかない。

 姉妹に見えないのも仕方がなかった。
 目鼻立ちがはっきりしていて豊かな赤毛を持つカルロッタと、おっとりした顔立ちで淡いピンクブラウンの髪色をしたシュゼットは似ていないのだ。

 それぞれ両親の面影があるのがせめてもの救いだ。
 そうでなかったら母がいらぬ疑いをかけられていただろう。

 カルロッタは従順な妹にまんざらでもない様子だ。

「ほら、さっさと片付けなさい! あたしがお茶から戻ってきても部屋が綺麗になっていなかったら、お母様と一緒に鞭で打ってやるからね」