嗚咽をこらえるシュゼットを、カルロッタは勝ち誇った顔であざける。

「今さら気づいても遅いのよ、シュゼット。あんたの夫はあたしのおさがりなの。おさがり姫なんだから慣れてるでしょう。あんたは一生、あたしの手垢がついたものにすがって生きていくのよ!」
「やめてっ」

 カルロッタの手を弾いてシュゼットは立ち上がった。

 もう、一秒だってここにいたくない。

 逃げるように部屋を出る。
 背後で姉が大声で高笑う。

 それは愚かなシュゼットを笑っているようにも、国王と結婚した幸運な妹に勝った自分に酔っているようにも聞こえた。

 廊下に突進したら、ちょうど歩いてきた男性とぶつかって肩を抱きとめられた。

「王妃殿下……?」

 ぶつかった相手はラウルだった。
 真夜中なのに騎士団の制服を着てけげんそうに顔をしかめた彼は、ベールの下からぽろぽろ落ちる涙に気づいた。

「国王陛下と何かあったのですか?」
「い、いいえ」

 シュゼットは震える手でラウルの体を押した。
 ショックで全身が冷えているせいか、しもやけを負ったように指先がズキンと痛んだ。

「何もありません。結婚しても今までと変わらなかった、それだけです……」

 口に出すと、本当に何でもない気がしてきた。

 シュゼットは、結婚して王族の一員になっても〝おさがり姫〟のままだった、それだけのこと。
 だったら、シュゼットの夫がカルロッタのおさがりなのは当たり前だ。

 宮殿はちょっと豪華な屋根裏で、使用人扱いされる代わりに王妃扱いされているだけ。

 今までと同じなんだから、悲しむ必要なんかない。
 ないのに。

「……愛されたかった」

 ぽつりと本音をこぼして、シュゼットはラウルから離れた。
 情けない自分をこれ以上、見られたくなかった。

 ラウルがぽかんとしているのを肌で感じたが、無視して王妃の部屋に戻り、大きなベッドに倒れこむ。

 ふかっと体が沈み込んで、流した涙までも吸い込んでくれた。
 誰もいない部屋は寒くて暗い。

(屋根裏部屋と同じですね……)

 馴染みのある静けさに、シュゼットのまぶたは自然と下りていった。