メグが化粧してくれたから大丈夫。
 シュゼットはそう自分に言い聞かせて体をひるがえし、参列者の方を向いた。

 正面に回ったアンドレは、シュゼットの顔を隠していたベールをめくる。
 傷跡のある辺りを見て眉をひそめたのは、この古傷をつけたのが自分だと思い出したのかもしれない。

 彼に辛い思いをさせないため、シュゼットは彼の腕に軽く触れた。

(大丈夫です。私は今、幸せですから)

 アンドレに腕を下ろしてもらい、前に出て参列者に微笑みかけた。

「ほう、これは」
「なんと美しい花嫁だ」

 参列者たちは、初めて見るシュゼットの姿に感嘆の声をもらし、盛大な拍手を送ってくれた。
 特注のファンデーションのおかげで、遠目に傷跡は見えなかったようだ。

 両親とカルロッタがさらに驚く顔を見て、シュゼットの胸がすいた。

(お父さま、お母さま、そしてお姉さま。私は幸せになります)

 今まで虐げられた分を取り返すくらい、幸福で満ち足りた人生を歩んでみせる。
 これまで苦しんだ自分には、その資格があると思った。

「これにて、シュゼット様は王妃と認められました」

 ラウルの合図でアンドレがベールを戻してくれた。
 二人揃ってラウルの方へ向きなおる。

「お二人の行く道に、そしてこのフィルマン王国に、祝福があらんことを……」

 結婚式を締めくくる声には、ほんの少しだけ不安が残っていた。