アンドレの紫色の瞳は、すでにシュゼットではなく説教台についた神父役に向いている。

「フィルマン王国第十八代国王アンドレ陛下、ジュディチェルリ侯爵家ご令嬢シュゼット様の婚儀をはじめさせていただきます」

 かしこまった口調に、シュゼットの背筋が伸びた。

 視線を前に向けると、神父役の青年のかきあげた前髪が目についた。
 ステンドグラスを通した陽光を受けて、爽やかな金色に輝いている。

(たしかこの方は、国王補佐のラウル・ルフェーブル様でしたね)

 剣のように鋭い瞳でシュゼットを見つめるラウルは、宰相であるルフェーブル公爵の長男で、現在は国王補佐としてアンドレの下で働いている。
 剣の才能もあるとかで、王立騎士団に預かりという形で所属しているらしい。

 結婚式の神父役をしているのは、王族の結婚に際しては、国王の腹心が誓いの言葉を聞き届ける慣例があるためだ。

 アンドレの補佐であるラウルは、これからシュゼットが付き合っていかなければならない相手でもあった。

(少し怖いけれど、それにもまして綺麗な人です)

 金の絹糸をつむいだような髪とエメラルドに見まがう碧眼、騎士服を着こなすすらりとした体つきに視線が吸い寄せられる。

 アンドレは人懐っこさがある美形だが、ラウルの持つ美貌には、有無を言わさないような壮絶さがただよう。

 百人見たら百人が讃えるような、それでいて畏怖するような美しさ。
 男性慣れしていないシュゼットでさえ、魅力的だと思うのだからさぞ女性にもてるだろう。

 だけど――どうも様子がおかしい。

 よろこびに満ちる聖堂で、ラウルの周りだけ空気がとげとげしいのだ。
 ラウルはシュゼットを、ただでさえ迫力のある目元を剣呑にして見つめている。

 ベール越しでなければ腰を抜かしていただろう。

(なぜにらまれているのでしょう?)