立ち上がったシュゼットは、白い百合の花束を手に廊下を歩いていった。

 ぴかぴかに磨き上げられた大理石に、窓から差し込んできた白い陽光が落ちる。
 窓枠に区切られた光のタイルを踏むように進むシュゼットは、どこからどう見ても幸せそうな花嫁だった。

 長いベールが体の周りでふわふわ揺れる。それだけで心が弾んだ。

(ベールを被るのがこんなにも楽しい瞬間があるだなんて知りませんでした)

 いつもは傷を隠すために被っているけれど、今日は花嫁の証だ。

 宮殿からつながる大聖堂には、すでに大勢の招待客が詰めかけていた。
 親族席には両親がいて、娘の晴れ姿に驚いている。

「あれがシュゼットなのか……?」
「別人みたいだわ」

 シュゼットはジュディチェルリ家で似合わないおさがり品ばかり着ていて、どことなくみすぼらしかった。

 しかし、体を流れるのは貴族の血だ。
 相応の格好をすれば上流階級らしい気品がにじみだす。

 両親ともカルロッタにばかり目をかけて、シュゼットが年頃らしく成長したのに気づかなかったのだろう。
 美しく仕上がったシュゼットを見ても、驚愕するばかりで感動してもらえないのは地味に心にくる。

(こうなると分かっていました、けれど)

 やはり、親に喜んでもらえないというのは辛い。

 テラテラした艶のあるドレスから豊満な胸を露出したカルロッタも、大変身をとげたシュゼットを穴があくほど見つめていた。

(お姉さま、どうですか。おさがり姫ではない私は?)