赤く引き攣れた跡に緑がかったファンデーションをぽんぽんと叩きこむメグは、こうして反対の色をのせると綺麗に隠せるんですよと教えてくれた。

「これは、結婚式のために国王陛下が特注で作らせたそうです」
「そうだったんですね。式が終わったら陛下にお礼を申し上げましょう」

 口ではそう言ったが、たかが化粧品で傷跡を消せるのかは半信半疑だ。
 これまでも、塗ればたちまちに傷跡が消える香油や肌が再生するという軟膏を使ったことがあるけれど何も変わらなかった。

 努力して裏切られてを繰り返していると、期待するのにも疲れてくる。

(本当にこれで隠れるのでしょうか?)

 ジャムの瓶のような容器に色のついたバームが詰まっている。
 シュゼットの顔にのせる前にメグが手にとった塊を見ると、絵の具よりは薄い色づきだがはっきりした緑だ。

(顔色が悪く見えないといいのですが……)

 メグは時間をかけて緑のファンデーションを叩き込み、その上に肌色のパウダーをブラシで丁寧にのせていった。

「完成しましたよ」

 シュゼットは再び鏡を見つめる。
 傷があった箇所はわずかに赤みが残っているものの、すっかり肌になじんでいた。

「すごいです……!」

 これならベールをまくりあげられても参列者には気づかれないはずだ。
 近くで誓いを立てるアンドレには丸見えだが、衆目にさらされないだけでシュゼットの心は救われる。

「よかったですね、王妃様。とってもお綺麗です」

 メグは涙を浮かべながらシュゼットの髪をすいてくれた。
 長い髪をひとまとめにして、上半身を全て覆うマリアベールをティアラで固定したところへ、付添人が迎えにやってきた。

「綺麗にしてくれてありがとう、メグ。行ってきますね」