息ぴったりだったので、二人はどちらともなく笑い出した。
 面食らっている他の侍女に、シュゼットは心の中で謝る。

(ごめんなさい。私たちだけで楽しんで)

 シュゼットとメグは共に読書が趣味で、好きな作家は巷で流行している恋愛小説家のエリック・ダーエ。
 ダーエは、主に宮廷を舞台にした切ない恋に定評がある作家だ。

 代表作は『みなしご令嬢の華麗なる結婚』『拾われ妃の宮廷日記』などで、王族や貴公子を相手にした物語は根強いファンが多かった。
 かくいうシュゼットもその一人だ。

 同じ物語に心をときめかせた同志として、シュゼットとメグは侯爵令嬢と使用人という枠には収まらない友情を育んできた。

 ダーエの新刊が出たとき、メグが手作りの夜食を持って屋根裏に忍んできて朝まで感想を語り合ったこともある。
 本の貸し借りも日常的にしていたし、身分差がなかったら堂々と親友になれただろう。

 親しみを込めてメグの手を握り、シュゼットはベールの下で微笑んだ。

「みなさん、ここまでありがとう。お化粧と髪のセットはメグ一人にお願いします」

 侍女たちには、弧を描く口元しか見えなかったはずだ。
 顔の見えない主に従うのは面白くないだろう。

 けれど、今日の主役の望みであれば叶えないわけにはいかないと、一礼して部屋を出ていってくれた。

 部屋にはシュゼットとメグの二人だけが残される。
 そうでないと困る。

 これからシュゼットは誰にも見せたくない秘密をあらわにするのだから。

「それでは外させていただきますね」