真夜中、夜着にガウンを羽織ったシュゼットは、ベールを被り、書庫で発見した宮廷録を持って寝室を出た。

 暗い廊下には誰もいない。
 ラウルのことだから人払いをしておいてくれたのだろう。

 シュゼットの方も、今晩は静かに眠りたいとメグに話して、早い時間から侍女たちに下がってもらっていた。

 肌寒いのは、夜になって気温が下がったのか、はたまたシュゼットがこれから起きることに怯えているせいなのか。

 緊張でこわばった体が冷えて指先が痛い。
 足は鉛を付けられているように重い。

(それでも、行かなければいけません)

 待っている彼のため、シュゼットは息をひそめて図書室を目指した。
 彫刻をほどこした扉を、音を立てないように開けると――。

「お待ちしておりました」

 中には、すでにラウルがいた。

 まばゆい金髪をかきあげ、闇と同化するような黒いマントを羽織った姿は、地獄を統べるという魔王のようだ。

 室内には他に誰もいない。
 照明もついていなくて暗い。窓から差し込む月光だけが頼りだ。

「もっと早くに来ればよかったですね」

 彼に近付いてベールを外す。
 下ろしたピンクブラウンの髪がさらりと揺れるのを見て、ラウルは感極まった様子で息を吐いた。

「……君が王妃だと気づかなかった」