その日の夕方、シュゼットはジュディチェルリ邸にやってきていた。
 王家の馬車を使って、正式な手順を踏んでの里帰りだ。

(嫁いでからの疲れが溜まっていると嘘をついたのは心が痛みます)

 しかし、そうでもしないとシュゼットはこの家には入れなかった。

 休養のためなので、身にまとうドレスはゆったりしている。
 顔を隠すベールを被り、お守り代わりの万年筆もこっそり服の下に忍ばせていた。

 けれど馬車を降りて、出迎えた両親の苦い顔を見たら、胃がしゅんと縮こまった。
 不審げな表情からは、「なぜ戻ってきた」「もう顔を見なくてすむと思ったのに」そんな心の声が聞こえてくるようだ。

 カルロッタが外泊していたのは不幸中の幸いだ。
 おかげで詮索されることもなく書庫に通された。

(ここに来るのは久しぶりです)

 シュゼットはベールを外して、書庫の中をよく見た。

 二階分の壁に本棚が作りつけられていて、中央に置かれた書見台をかねた机には古びた羽根ペンがある。
 絨毯やカーテンの類は一切なく、歩くとコツコツと足音が響いた。

 ここは、正面玄関からもっとも遠い屋敷の最奥にある。
 主に使用していた祖父は、シュゼットが五歳の頃に病みついて療養地へ移動してこの家には帰って来なかった。

 他に利用者はいなかったので、床や棚にはうっすら埃が積もっている。
 一人分の新しい足跡は、メグに頼まれて宮廷録を探したメイドのものだろう。

(結局、見つからなかったと聞いています)