ビクッとしたシュゼットは、顔をあげて息をのんだ。

 初めてまともに見たラウルの顔つきは、いつもの彼とは異なっていた。
 剣のようにつり上がった瞳は丸く、眉間の皺も薄れて、細い眉は真横に伸びる。

 覇気が抜けたその顔は、
「ダーエ先生?」
 シュゼットが焦がれて止まない小説家そっくりだった。

 そっくりというレベルではない。
 前髪を下ろしたらエリックそのものだ。

(こんなことがあるのでしょうか)

 今まで、ラウルの顔をしっかり確認したことはない。
 シュゼットの視界はベールにさえぎられているし、恐怖感から直視してこなかった。

 でも、この至近距離で見つめ合えばさすがに分かる。
 シュゼットを抱き寄せた腕の感触は、雨の晩に抱きしめてくれたエリックと同じだ。

(どうして)