「そんな緊張しなくても平気ですよ。スマイル、スマイル!」

 頬に人差し指を押し付け、花梨ちゃんがニッコリ笑う。真っ黒な競技用水着を着用しても背筋が伸びていた。

「はは、花梨ちゃんが一緒で良かった。私一人じゃ場の空気に飲まれて、まともなパフォーマンスが出来なかった」

「先輩、自分でこの依頼は御曹司の暇潰しって言ったじゃないですか? 豪華客船のプールを貸し切りなんて、きっと後にも先にもないんだから楽しんじゃいましょうよ?」

 頷く、私。

「えぇ、そうね。依頼人にも有意義な時間になるよう勤めなきゃね」

「ーー奈美先輩ってば、本当に真面目ですね」

 そして、鏡の前で深く深呼吸。

 花梨ちゃんも指摘していたが更衣室ですら持て余す広さ、手元には美容機器などが取り揃えられている。

「このドライヤー、ネットで十万円以上したわ」

「え、そうなんですか! 詳しいですね! あっ、だから奈美先輩の髪ってキレイなんだ!」

「髪のケアだけは頑張っている、かな。メイクやオシャレが得意でない分、母譲りの黒髪を手入れしてる感じ」

「うん! サラサラツヤツヤしてて、とっても素敵です!」

 真っ直ぐ褒められると照れてしまう。つい謙遜してしまいそうになるも、寸でで微笑み返す。

「そろそろ時間ね。プールサイドへ行きましょう」

「はい!」