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「――――え?じゃあ引っ越ししなかったの?」
「しなかったっていうか、一応引っ越しはしたんだよ」
同じ町内の別の家に、と気まずそうに言い足す佐倉くん。
その言い方がなんだかおかしくて、私はつい笑ってしまう。
「保育園のころだったからさ・・・、引っ越すってことしかよくわかってなくて・・・。ずっと遠くの町に引っ越すんだとか勘違いしてて・・・。それでカッコつけて『この町に戻ってくるから』とか約束したもんだから・・・」
「あは、あはははっ!」
「・・・笑いすぎ」
私と佐倉くんは、大きな桜の木の下で長い長い話をした。
桜の約束のこと、お互いが知らない中学時代のこと。
そして、タイムループのこと。
たくさんたくさん話をして、そして日が沈みかけるころ、私達は帰路についた。
「ただいま」
「おかえり!永、遅かったから心配したわよ、もう!」
「あ・・・ごめん、話してて遅くなっちゃった」
お母さんとお父さんと、いつもの食卓に着く。
このループの間、嫌ってほど食べてきたお母さんのカレー。
「いただきます!」
きっとこれも最後だと、私は勢いよくカレーを口に運んだ。
お風呂に入って、もう耳にタコができるほど聞いたテレビ番組をスルーして、うんざりするほど交わしたやりとりを両親として。
それで、私は布団にもぐりこんだ。
(・・・ああ)
なぜだろう。
一人になったとたん、涙があふれてきた。
明日が来る期待と、本当に明日が来るのかという不安。
「・・・・っ」
私は・・・私は、明日なんて来なくたっていい。
ただ佐倉くんが今日かわした言葉を、共有した時間を、忘れないでいてほしい。
ただそれだけなんだ。
「さくらくん・・・っ」
私が佐倉くんの名前を呼んだ瞬間、私のスマホが震えた。
「!!」
電話――――通知には、佐倉くんの名前。
どうして、とかすれた声が私の喉から漏れた。
私はわけもわからないまま、すがるように通話ボタンを押す。
『もしもし――――』
「佐倉くん・・・!なんで・・・っ?」
涙交じりの私の声、電話越しに佐倉くんの動揺が伝わってきた。
『・・・日付が、変わるとき・・・日野を一人にしちゃいけない、気がして・・・』
「・・・っ」
私は、ぎゅっと自分のスマホを握りしめた。
いつもそうだ。
佐倉くんは、私が世界に独りぼっちになったとき、真っ先に駆け寄ってきてくれる人なんだ。
「・・・あのね佐倉くん。日付が変わるまで、このまま電話しててもいいかな・・・?」
『もちろん』
時刻は、もう23時を過ぎていた。
私は0時が迫る恐怖を覚えながら、ただひたすらにスマホを強く握りしめ続けた。
「―――――夏休み中はー、夏祭りでしょ、プールでしょ、それに文化祭実行委員に・・・」
『ふ、忙しいな』
「・・・佐倉くんとも遊びたい」
『うん―――――』
秒針が刻々と時を刻む。
「―――――佐倉くんは三人兄弟?」
『そう、姉と妹。昔は男兄弟がずっとほしかったんだよな』
「私、一人っ子だから、兄弟いるだけうらやましい・・・―――――」
スマホの充電が、少しずつ減っていく。
「――――夏休み中コンクールあるから、部活もがんばらないと!」
『俺も大会あるから、がんばらないとだな』
「そうなんだ!ねぇねぇ、応援って行ってもいいの?」
『・・・まあいい、けど』
「けど?」
『緊張する』
「あははっ―――――」
夜の静けさが、少しずつ深くなる。
気づけばもう0時が目前に迫っていて。
「・・・あと1分、か・・・」
『・・・・』
時計の針を見上げ、ただ静かな静寂が流れる。
電話越しに佐倉くんが、小さく息を吸う音が聞こえた。
『日野』
「ん?」
『・・・7月16日になったら、伝えたいことがある』
電話越しに、その言葉が届いたとたん、私の瞳が揺らぐ。
脳裏によみがえる、いつかの佐倉くんとのやりとり。
『・・・・話がある』
『話?』
『そう。7月16日に、伝えるよ』
『・・・わかった』
きっとあの日の、あの失われた7月15日の会話を、今の佐倉くんは覚えていない。
それでも私はなんだか・・・嬉しかった。
失われたあの日の会話が、それでも確かに存在しているような気がして。
「うん、わかった」
私は震える手を、もう片方の手で押さえて、ただただ秒針が刻まれるのを目に焼き付けた。
どうか、どうか明日が来るように、と。
ただひたすらに願いながら。
「――――え?じゃあ引っ越ししなかったの?」
「しなかったっていうか、一応引っ越しはしたんだよ」
同じ町内の別の家に、と気まずそうに言い足す佐倉くん。
その言い方がなんだかおかしくて、私はつい笑ってしまう。
「保育園のころだったからさ・・・、引っ越すってことしかよくわかってなくて・・・。ずっと遠くの町に引っ越すんだとか勘違いしてて・・・。それでカッコつけて『この町に戻ってくるから』とか約束したもんだから・・・」
「あは、あはははっ!」
「・・・笑いすぎ」
私と佐倉くんは、大きな桜の木の下で長い長い話をした。
桜の約束のこと、お互いが知らない中学時代のこと。
そして、タイムループのこと。
たくさんたくさん話をして、そして日が沈みかけるころ、私達は帰路についた。
「ただいま」
「おかえり!永、遅かったから心配したわよ、もう!」
「あ・・・ごめん、話してて遅くなっちゃった」
お母さんとお父さんと、いつもの食卓に着く。
このループの間、嫌ってほど食べてきたお母さんのカレー。
「いただきます!」
きっとこれも最後だと、私は勢いよくカレーを口に運んだ。
お風呂に入って、もう耳にタコができるほど聞いたテレビ番組をスルーして、うんざりするほど交わしたやりとりを両親として。
それで、私は布団にもぐりこんだ。
(・・・ああ)
なぜだろう。
一人になったとたん、涙があふれてきた。
明日が来る期待と、本当に明日が来るのかという不安。
「・・・・っ」
私は・・・私は、明日なんて来なくたっていい。
ただ佐倉くんが今日かわした言葉を、共有した時間を、忘れないでいてほしい。
ただそれだけなんだ。
「さくらくん・・・っ」
私が佐倉くんの名前を呼んだ瞬間、私のスマホが震えた。
「!!」
電話――――通知には、佐倉くんの名前。
どうして、とかすれた声が私の喉から漏れた。
私はわけもわからないまま、すがるように通話ボタンを押す。
『もしもし――――』
「佐倉くん・・・!なんで・・・っ?」
涙交じりの私の声、電話越しに佐倉くんの動揺が伝わってきた。
『・・・日付が、変わるとき・・・日野を一人にしちゃいけない、気がして・・・』
「・・・っ」
私は、ぎゅっと自分のスマホを握りしめた。
いつもそうだ。
佐倉くんは、私が世界に独りぼっちになったとき、真っ先に駆け寄ってきてくれる人なんだ。
「・・・あのね佐倉くん。日付が変わるまで、このまま電話しててもいいかな・・・?」
『もちろん』
時刻は、もう23時を過ぎていた。
私は0時が迫る恐怖を覚えながら、ただひたすらにスマホを強く握りしめ続けた。
「―――――夏休み中はー、夏祭りでしょ、プールでしょ、それに文化祭実行委員に・・・」
『ふ、忙しいな』
「・・・佐倉くんとも遊びたい」
『うん―――――』
秒針が刻々と時を刻む。
「―――――佐倉くんは三人兄弟?」
『そう、姉と妹。昔は男兄弟がずっとほしかったんだよな』
「私、一人っ子だから、兄弟いるだけうらやましい・・・―――――」
スマホの充電が、少しずつ減っていく。
「――――夏休み中コンクールあるから、部活もがんばらないと!」
『俺も大会あるから、がんばらないとだな』
「そうなんだ!ねぇねぇ、応援って行ってもいいの?」
『・・・まあいい、けど』
「けど?」
『緊張する』
「あははっ―――――」
夜の静けさが、少しずつ深くなる。
気づけばもう0時が目前に迫っていて。
「・・・あと1分、か・・・」
『・・・・』
時計の針を見上げ、ただ静かな静寂が流れる。
電話越しに佐倉くんが、小さく息を吸う音が聞こえた。
『日野』
「ん?」
『・・・7月16日になったら、伝えたいことがある』
電話越しに、その言葉が届いたとたん、私の瞳が揺らぐ。
脳裏によみがえる、いつかの佐倉くんとのやりとり。
『・・・・話がある』
『話?』
『そう。7月16日に、伝えるよ』
『・・・わかった』
きっとあの日の、あの失われた7月15日の会話を、今の佐倉くんは覚えていない。
それでも私はなんだか・・・嬉しかった。
失われたあの日の会話が、それでも確かに存在しているような気がして。
「うん、わかった」
私は震える手を、もう片方の手で押さえて、ただただ秒針が刻まれるのを目に焼き付けた。
どうか、どうか明日が来るように、と。
ただひたすらに願いながら。


