7月15日、あなたに告白します。

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「――――え?じゃあ引っ越ししなかったの?」

「しなかったっていうか、一応引っ越しはしたんだよ」


 同じ町内の別の家に、と気まずそうに言い足す佐倉くん。
 その言い方がなんだかおかしくて、私はつい笑ってしまう。


「保育園のころだったからさ・・・、引っ越すってことしかよくわかってなくて・・・。ずっと遠くの町に引っ越すんだとか勘違いしてて・・・。それでカッコつけて『この町に戻ってくるから』とか約束したもんだから・・・」

「あは、あはははっ!」

「・・・笑いすぎ」


 私と佐倉くんは、大きな桜の木の下で長い長い話をした。

 桜の約束のこと、お互いが知らない中学時代のこと。
 そして、タイムループのこと。

 たくさんたくさん話をして、そして日が沈みかけるころ、私達は帰路についた。


「ただいま」

「おかえり!永、遅かったから心配したわよ、もう!」

「あ・・・ごめん、話してて遅くなっちゃった」


 お母さんとお父さんと、いつもの食卓に着く。
 このループの間、嫌ってほど食べてきたお母さんのカレー。


「いただきます!」


 きっとこれも最後だと、私は勢いよくカレーを口に運んだ。

 お風呂に入って、もう耳にタコができるほど聞いたテレビ番組をスルーして、うんざりするほど交わしたやりとりを両親として。
 それで、私は布団にもぐりこんだ。


(・・・ああ)


 なぜだろう。
 一人になったとたん、涙があふれてきた。

 明日が来る期待と、本当に明日が来るのかという不安。


「・・・・っ」


 私は・・・私は、明日なんて来なくたっていい。

 ただ佐倉くんが今日かわした言葉を、共有した時間を、忘れないでいてほしい。
 ただそれだけなんだ。


「さくらくん・・・っ」


 私が佐倉くんの名前を呼んだ瞬間、私のスマホが震えた。


「!!」


 電話――――通知には、佐倉くんの名前。
 どうして、とかすれた声が私の喉から漏れた。

 私はわけもわからないまま、すがるように通話ボタンを押す。


『もしもし――――』

「佐倉くん・・・!なんで・・・っ?」


 涙交じりの私の声、電話越しに佐倉くんの動揺が伝わってきた。


『・・・日付が、変わるとき・・・日野を一人にしちゃいけない、気がして・・・』

「・・・っ」


 私は、ぎゅっと自分のスマホを握りしめた。

 いつもそうだ。
 佐倉くんは、私が世界に独りぼっちになったとき、真っ先に駆け寄ってきてくれる人なんだ。


「・・・あのね佐倉くん。日付が変わるまで、このまま電話しててもいいかな・・・?」

『もちろん』


 時刻は、もう23時を過ぎていた。
 私は0時が迫る恐怖を覚えながら、ただひたすらにスマホを強く握りしめ続けた。


「―――――夏休み中はー、夏祭りでしょ、プールでしょ、それに文化祭実行委員に・・・」

『ふ、忙しいな』

「・・・佐倉くんとも遊びたい」

『うん―――――』


 秒針が刻々と時を刻む。


「―――――佐倉くんは三人兄弟?」

『そう、姉と妹。昔は男兄弟がずっとほしかったんだよな』

「私、一人っ子だから、兄弟いるだけうらやましい・・・―――――」


 スマホの充電が、少しずつ減っていく。


「――――夏休み中コンクールあるから、部活もがんばらないと!」

『俺も大会あるから、がんばらないとだな』

「そうなんだ!ねぇねぇ、応援って行ってもいいの?」

『・・・まあいい、けど』

「けど?」

『緊張する』

「あははっ―――――」


 夜の静けさが、少しずつ深くなる。
 気づけばもう0時が目前に迫っていて。


「・・・あと1分、か・・・」

『・・・・』


 時計の針を見上げ、ただ静かな静寂が流れる。
 電話越しに佐倉くんが、小さく息を吸う音が聞こえた。


『日野』

「ん?」

『・・・7月16日になったら、伝えたいことがある』


 電話越しに、その言葉が届いたとたん、私の瞳が揺らぐ。
 脳裏によみがえる、いつかの佐倉くんとのやりとり。


『・・・・話がある』

『話?』

『そう。7月16日に、伝えるよ』

『・・・わかった』


 きっとあの日の、あの失われた7月15日の会話を、今の佐倉くんは覚えていない。
 それでも私はなんだか・・・嬉しかった。

 失われたあの日の会話が、それでも確かに存在しているような気がして。


「うん、わかった」


 私は震える手を、もう片方の手で押さえて、ただただ秒針が刻まれるのを目に焼き付けた。

 どうか、どうか明日が来るように、と。
 ただひたすらに願いながら。